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OSAKA SEIKEI PRESS

元国連大使からの学生へのメッセージ

大阪成蹊大学 国際観光学部 客員教授吉川元偉

大学生の印象

全国各地の大学で講義をすることがあります。こちらから質問しても、人前で意見を述べることがなかなかできない学生が多いです。「出る杭」になるのが嫌なのでしょうか。しかしながら後日授業の感想レポートを読むと、よく考えた意見が書かれているものが多く、驚くことがあります。 大阪成蹊大学でも同じような経験があります。
社会に出た時、自分の意見をきちんと言えることが大切です。少なくとも意見を聞かれたら答えられるようにしたいですね。

これを改善するのは、学生だけに求めても十分ではなく、教師の側でも工夫できることがあると思います。コロナ禍の中、大阪成蹊大学でもオンライン授業を実施しました。その経験を活かしオンラインと対面授業を併用するハイブリッド授業が今回の授業(特別リレー講義)で行われています。
初回にオンデマンド授業でじっくりと考えてもらい、次の対面授業でグループ討議?発表を行っています。これは、学生が意見を持ち、それを積極的に述べるための良いやり方だと思います。

大阪成蹊大学では、アクティブラーニングの推進や様々な発表の機会を設けていると伺っています。それらの取り組みも、自らの言葉で意見を発信するトレーニングとして非常に有効だと思います。

「意見を持つ」ことの大切さ

外国で暮らしてみて、日本人は、「正直」「勤勉」な一方、「おとなしい」「意見を言わない」という印象を持たれていると思います。これは最初にお話しした日本の大学生に対する印象にも似ています。いろいろな国の人が集まって議論している中、黙っていると、その人は自分の考えのない人、その場に居なくても困らない人と見られる可能性が大きいです。

日本の総理大臣で、世界で記憶されている方は残念ですが多くありません。名前を覚えられている方々は、いずれも自分のはっきりした意見を発信された政治家です。
自分の意見や主張のごり押しはだめですが、多くの人が納得する意見を言える日本人がたくさん出てくれば、日本人のイメージが、「正直」「勤勉」に加えて「良い意見を持っている」に変わっていくでしょう。そうなれば非常にいいですね。

紛争の絶えない世界と日本の立場

今2つの戦争が起きています。ウクライナと中東のガザですが、自分たちには関係ないと思っている人が多数ではないでしょうか。日本が戦争をしなければ、少なくとも日本は平和で豊かな生活をすることができると思っているからでしょう。でも現実は違います。

2022年の2月から続いているロシア?ウクライナ戦争でロシアが勝つかも知れません。そうなれば、国連安保理の常任理事国という平和を守る大きな責任を担っているはずの国が、明白な国際法違反の武力侵略をして隣国の領土を略奪することになります。そのような状況を日本にあてはめると、ロシアにより武力で略奪された 北方領土が戻ってくることは考えられません。同じく常任理事国の中国は、ロシアの軍事行動を非難していません。ロシアがウクライナ戦争に勝つと、中国は、台湾に進攻してもアメリカ含めどの国も介入しないだろうと考える可能性があるでしょう。そうなれば日本の領土も脅かされるリスクが出てきます。 ウクライナを助け、ロシアが勝たないように行動することは、日本の利益でもあるのです。

昨年の10月以来中東では、パレスチナのハマスという非政府組織がイスラエルを武力攻撃して多くの人が殺害され人質に取られていました。これに対しイスラエルが報復攻撃をし、大きな戦争になっています。
日本がどういう対応をするかを世界は見ています。日本の同盟国であるアメリカは、イスラエルの行動を支持しています。日本が90%の石油を輸入しているアラブ諸国はパレスチナを支持していますので、その立場に賛同するとアメリカとの関係がぎくしゃくするかも知れません。同時に、ガザで起きている人道的惨状は止めないといけませんから、イスラエルに注文をつけないといけません。
このかじ取りは非常に難しいです。我々市民も日本の置かれている立場を理解して、世界の紛争を見る必要があると思います。

あなたは何がしたいのか

「あなたは何がしたいのか?」「大学で学んでいるのは何のためか?」を自分自身に問うことが必要です。 できれば高校生の時に、遅くても大学生の間に、自分が将来やりたいことをしっかり考えれば、次はそれを達成するためにどういう筋道があるのかを探すことになり、具体的にやるべきことが見えてきます。やりたいことが明らかになると、あとは強い決意をもって実行するだけです。

世界はすでにグローバルになっています。どんな仕事についても世界との関係があります。英語を話せることはとても大事です。実際に海外に出かけて行き、世界の実相を知ることも大切です。それもアメリカやヨーロッパといった先進地域ではなく、日本の隣国であるアジアを知ることが大切だと思います。

この点に関しての一例ですが、外務省には「在外公館派遣員制度※」があり、大学在学中(大学卒業生も応募可能)の2年間、世界各地の大使館?総領事館に派遣されて、空港での来客の接遇をはじめとする多くの貴重な経験を積みます。報酬?家賃が支給されます。派遣員終了後の進路を見ると幅広い分野に就職しています。外務省に採用された人もいます。大阪成蹊大学の学生諸君も挑戦してみてはいかがでしょうか。

※在外公館派遣員制度について
各国の日本国在外公館(大使館、総領事館等)に民間人材を派遣し、語学力を生かして主に後方支援的な業務に従事してもらう制度。外務省の委託を受けて一般社団法人国際交流サービス協会が、年間2回(前期:5月上旬、後期:10月上旬)の募集を実施しています。
(一般社団法人国際交流サービス協会のホームページはこちら)

PROFILE

1974 年外務省入省。スペイン大使、初代アフガニスタン?パキスタン支援担当大使、経済協力開発機構(OECD)日本政府代表部大使、国際連合日本政府代表部大使?常駐代表などを歴任。国連大使在任時(2016 年)には、日本政府を代表してパリ協定(気候変動に対応するための国際的な取り決め)に署名。2016年外務省を退官し、翌年より国際基督教大学特別招聘教授。2021 年より大阪成蹊大学客員教授。